コトノハなごや
2018年度アーカイブ
2017年度アーカイブ
それからの動物園
武田 俊
 はじめは、正門からだった。いつも、誰かに手を引かれていた。そのうち、妹が加わった。スクランブル交差点の信号が青になると、「とおりゃんせ」が流れた。園内は広くて、すべてはまだ回れなかった。休憩所のテーブルチェアはいつもいっぱいで、ぼくたちはビニールシートを敷いて、母手製のおいなりさんを食べた。
 まわりにはそんな家族たちが、たくさんいた。今よりも人の暮らしぶりが均質で、同じような週末を過ごすことの幸せがあった。知らない子のお父さんがうれしそうにビールを飲んでいて、ぼくもうれしい。帰りはいつも、世界が終わるようなまっかな夕焼け。それがおそろしく、かなしくなったりする。

「……そろそろいいよな?」
「うん、もうお母さん、車に乗ったと思うぜ」
 そういって、お菓子とナイフをつめたナップサックを背負った。園の裏山に住むSくんの家で遊ぶ日は、山の尾根をつたってこっそり入園としけ込む。必要もないのに小枝をナイフではらって進み、語尾に「だぜ」をつけて話す。
 ブナの木立ちの中、三つ切り株がならぶ場所で「コアラのマーチ」を食べる。急に「好きなひといる?」ときかれる。いねーよ、と答えるとき、これが男どうしなんだぜ、と誇らしく思う。同時に少しだけ、一年生の頃から気になっている女の子の顔を思い浮かべた。
 それからの動物園を知らなかった。ボートに乗ったら別れるというジンクスも、知らないまま東京に出た。最初の夏に、高校からつきあっていた彼女と別れた。ジンクスだったらよかったのに、人はふつうに別れる。

 久々に出かけた時は、足元の小さな人の気配がたよりだった。「にいにい、ぞうさんみよ」といって駆けていくめいっ子の手を引く。ビニールシートを敷いている人が、いない。テーブルチェアが新しい。変わるものと、変わらない時間がある。ここがそれからの動物園だ。帰り道、世界はまだ終わらないから、夕焼けをそぼくにきれいだと感じる。
コトノハなごやとは
平日の通勤電車から見ているなごやの「モノ・コト」。休日のなごやの「人・風景」。
秘密にしておきたい通学途中のなごやの息抜きスポットなど…。
ことばと文化、メディア ー 互いにつながりあって「次の時代の望むことば・文字、なごや」を考える
【コトノハなごや】として、作品をお待ちします。
選考委員
中村 航Nakamura Kou
作家
1969年、岐阜県大垣市生。大垣市立北中学校、岐阜県立大垣北高等学校、芝浦工業大学工学部工業経営学科卒業。10代の頃はバンド活動をし歌詞や曲の創作活動が好きだった。卒業後、メーカーに就職し、エンジニアとして働く。27歳の時に友人に勧められて小説を書きはじめる。執筆活動に専念するため、1999年、29歳の時に退社。2002年、『リレキショ』(河出書房新社刊)で文藝賞受賞。『夏休み』(河出書房新社刊)が芥川賞候補に。『ぐるぐるまわるすべり台』(文藝春秋刊)で野間文芸新人賞受賞、第130回芥川賞候補。著作『100回泣くこと』や『デビクロくんの恋と魔法』は映画化される。アニメ『バンドリ!』原案、映画『トリガール!』原作者。
吉川 トリコYoshikawa Toriko
作家
1977年生まれ、名古屋市在住。愛知淑徳短期大学卒業。2004年、「ねむりひめ」で新潮社「女による女のためのR-18文学賞」の第3回大賞と読者賞を受賞。同年、短編集『しゃぼん』にて同社からデビュー。2007年には、『グッモーエビアン!』を原作とした東海テレビの単発ドラマ『なごや寿ロックンロール〜「グッモーエビアン!」より〜』が放送されたほか、『戦場のガールズライフ』がドラマ化され放送されている。また、2012年には『グッモーエビアン!』の映画化作品が全国にて公開。2013年より中日新聞のウェブサイトで名古屋を舞台とした短編小説「名古屋16話」を連載、出版。(2017年『ずっと名古屋』に改 訂出版)
武田 俊Takeda Shun
編集者・文筆家
1986年、名古屋市生まれ。法政大学文学部日本文学科兼任講師。JFN「ON THE PLANET」月曜パーソナリティ。大学在学中にインディペンデントマガジン『界遊』を創刊。2011年、代表としてKAI-YOU,LLC.を設立。同社退社以降「TOweb」、「ROOMIE」、「lute」などカルチャー・ライフスタイル領域のWebマガジンにて編集長を歴任。メディア研究とその実践を主とし、様々な企業や自治体とのメディアを活用したプロジェクトにも関わる。中日ドラゴンズを愛する、右投右打。
写真提供・監修、フィールドワーク講師
宮田 雄平Miyata Yuhei
フォトグラファー
1978年生まれ、名古屋市在住。名古屋ビジュアルアーツ専門学校 写真学科を卒業後にフリーランスのカメラマンとなる。雑誌や書籍、広告、イベントなどの撮影を行いながら、名古屋の街並みのスナップ撮影をライフワークとしている。また、覚王山スタジオにてワークショップ【THE STREET SNAP】の講師も行う。
ワークショップ講師
太田 忠司Ohta Tadashi
作家
1959年、名古屋生まれ。名古屋工業大学卒業。1981年「帰郷」が星新一ショートショートコンテスト優秀作に選ばれ、1990年『僕の殺人』で長編デビュー。2005年『黄金蝶ひとり』でうつのみやこども賞受賞。2017年『名古屋駅西 喫茶ユトリロ』で日本ど真ん中書店大賞第3位。著書は他に『新宿少年探偵団』『奇談蒐集家』『ミステリなふたり』『密原トリカと七億の小人とチョコミント』他、多数。
流れ

2018年度選考会動画です。音声がありますので再生の際はご注意ください

入選20作品
掲載は応募順となっています。
事務局にて校正、校閲をした作品を掲載しておりますことをご了承ください。
1
 
2
3
4
5
・コトノハなごや 金賞 1作品 賞状と副賞10万円
・コトノハなごや 銀賞 2作品 賞状と副賞各3万円
・コトノハなごや 佳作 2作品 賞状と紀伊國屋書店ギフトカード各5千円分 提供:紀伊國屋書店プライムツリー赤池店
結果発表
入選20作品 | 2019年11月下旬より公式ウェブサイト上で発表します。
入賞作品| 2019年12月7日(土)の「コトノハなごやサロン」(授賞式・公開講評トーク)で発表します。

※入選20作品の作者の皆様は「コトノハなごやサロン」にご出席いただきますようお願いいたします。
※「コトノハなごやサロン」では、選考委員が入選作品の公開講評トークを行います。
参加体験プログラム
何気ない日常の彩りも目線を少し変えれば、変わるもの。
その角度や時間の切り取り方を、写真やことばで表現しているプロフェッショナルから、ヒントをもらえる参加体験プログラムです。また、コトノハなごやサロンは、作品募集プログラムで選ばれた入選20作品の公開講評トークと、入賞作品発表、授賞式を行います。ご期待ください!
フィールドワーク
日時
2019年7月27日(土)13:30−16:30 荒天のため中止となりました

会  場
有松地区(重要伝統的建造物群保存地区)
講  師
宮田 雄平
内  容
有松のまちを感じながらスマホのカメラ機能やデジカメを使って「日常を印象的に切り取る」フォトウォークです。最後に皆さんそれぞれの「今日一番の写真」を全員で見ながら講師に講評してもらいます。
持ち物
撮影機材(スマホ、デジカメ)、筆記用具
参加費
600円(会場費、保険料、資料代を含む)
定  員
20名
申込開始
6月25日(火)から
ワークショップ
日時
2019年8月24日(土)14:00−16:30 終了しました
会  場
青少年文化センター第1スタジオ(名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク7階)
講  師
太田 忠司
内  容
太田氏著書を基に題材(写真)からのイメージのふくらませ方と、それを800字以内にまとめる技術を初心者にもわかりやすくレクチャーします。その後講師による個別作品相談を実施。文章初心者から書き慣れた方まで、一緒に作品の応募を目指します。
持ち物
入力機材(スマホ、タブレット等。ない方は原稿用紙等)、筆記用具
参加費
600円(会場費、保険料、資料代を含む)
定  員
20名
申込開始
6月25日(火)から
教材著書
ショートショート美術館 名作絵画の光と闇』(太田忠司 田丸雅智)文藝春秋
※事前に読んで参加されるとより理解が深まります。
コトノハなごやサロン
日時
2019年12月7日(土)14:00−16:00
会  場
7th cafe(名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク7階)
スピーカー
中村 航、吉川トリコ、武田 俊
内  容
「コトノハなごや」の入選20作品から、入賞5作品を発表し、授賞式を行いますので、作者の皆様はご出席ください。
また、入選作品についての公開講評トークも開催しますので、お楽しみに!
参加費
無料 ※応募されていない方の参加も大歓迎!
コトノハなごや企画展
日時
2019年6月25日(火)-12月7日(土)
会  場
文化情報ひろば(名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク7階)
内  容
第2回「コトノハなごや」の入賞5作品と、中村航氏が執筆した基調文を展示します。
※その他市内施設や協力書店でも展示予定。詳細は公式SNSをご覧ください。
日時
2019年9月17日(火)-9月29日(日) 終了しました
営業時間に準ず
(平日:7:00~19:00、土日・祝:8:00~18:00 不定休)
※下記リンクの店舗サイトをご確認ください。
会  場
ミッツコーヒースタンド http://www.mitts-coffee.com/(名古屋市中区錦2 丁目8-15 錦三輪ビル1F)
※カフェ店内につきご注文をお願いします。
内  容
第2回「コトノハなごや」の金・銀賞作品と写真提供/宮田雄平氏監修による有松の写真を展示します。